第一部・光芒(昭和40年3月より)
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☆てのひらに 遊ばす具や 浜の春 |
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☆師とあれば 冬日豊かに 茶の点前 |
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☆受洗者に ステンドグラス 射る日ざし |
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☆安息日 白きフリージャ 活け了える |
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☆ミサ了えて 帰る野広し紋白蝶 |
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☆春灯に祈る少女の髪ふさふさ |
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☆霧氷林 海の旭光 照り返す |
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☆花鋏 手にす暮色の 部屋冷えに |
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☆時刻(とき)忘れ 仮眠の夫や 賀状読む |
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☆靄走る 紅葉落暉の 隈をなし |
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☆打ち水の 少年虹を 撒き散らす |
紀州有田にて |
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☆山門の 壊れしまゝに 揚羽蝶 |
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☆塔頭を 昔に穂芒の 揺れ止まぬ |
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☆鰯雲 おみくじ枝に 結い了る |
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☆托鉢の 僧と行き合う 鰯雲 |
奈良西の京にて |
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☆薬師寺の 雨の桜の 散りくるよ |
中宮寺 |
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☆白木蓮 そこだけゆらぐ 空の色 |
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☆陽炎や 少女ベレーを 振って来る |
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☆どんど火に うなじが透ける 少女あり |
当麻寺四句 |
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☆雛菊に 当麻の土の くろくして |
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☆雛菊や 書院のあたりに ピアノの音 |
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☆二上山の 裾ひく寺や 石蕗枯るゝ |
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☆足跡石の 跡の小さし 寒牡丹 |
吾子十二歳誕生日 |
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☆春潮へ 子のやわらかき 髪梳きぬ |
笠置山二句 |
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☆霧はれて 沁みゆく日射 磨崖仏 |
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☆水引の 花過ぐる風 谷深し |
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☆茄子を焼く 匂いみち来て 露路昏るゝ |
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☆瀬音交りに 葉月の蝉の 旅情かな |
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☆霧沸きて 天城の葛の ゆるゝなり |
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☆年の夜の 音しかと解く しつけ糸 |
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☆取り散らす 厨ほのぼのと 寒卵 |
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☆天衣無縫の 靄包み去る 冬木立 |
告別ミサ三句 |
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☆地に湧きし 喪の歌拉す 冬の天 |
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☆寒菊の 香に告別の 今しミサ |
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☆冬日幾度か 喪の背に当り ミサ了る |
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☆茶の花や 風切って駆く 黒き猫 |
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☆苔に散る 落葉集めて 尼立ちぬ |
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☆吹きだまる 落葉日に寄る 鹿の群 |
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☆鹿の瞳の おびえ易さよ 秋の暮 |
念仏寺 |
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☆穂芒の ひとむら光り 風化仏 |
祇王寺 |
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☆栗めしや 笹鳴る嵯峨の 茶屋に座す |
落柿舎 |
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☆うす紅葉 去来の墓に 小石積む |
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☆おくれ毛の くすぐるほゝよ 青葉風 |
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☆スケッチす 少女は素足 若葉映え |
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☆ふるさとの 厨なつかしく 豌豆剥ぐ |
都井岬 |
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☆夕日に遊ぶ 野生馬の群 春惜しむ |
兼六公園 |
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☆落椿 水澄む濠の 鯉はねる |
片山津 |
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☆夏近し 湖血を渡る 加賀太鼓 |