〜微羽の句集〜

第二部・飛翔(昭和45年10月)
☆丹念に 髪洗ふなり 芙美子の忌
  ☆黐の花 音なく散りて ゐたりけり
☆石垣の 濡れ色なせり 秋の蛇
☆霧はれて 日射とゞきぬ 磨崖仏
☆ひらひらと 光(かげ)こぼしけり海紅豆
☆黛を 細く引きたり 十二月
伊豆
☆吉祥天 錦木の坂 ゆるやかに
☆豆の花 母は小さく なり給ふ
吾子十二歳誕生日
☆少女期過ぐ たんぽゝの絮 舞いつづけ
☆初潮見し 吾子と対へり ゆすらうめ
☆かたばみへ 雀の羽根の おぼれけり
☆花菖蒲 湖の碧さに ひらきけり
山本肇句集を
読みて
☆花韮や かるき眩暈に 句集閉づ
☆微笑仏 枯蔦は燃え ゐたりけり

雁俣みち子素描 (飛翔の中に載せられたもの)
 「万葉大和風土記」の著者 名大教授 堀内民一氏に師事 女学生の頃より
短歌に凝る。
     ☆てのひらの 山繭の音 秋立ちぬ     みち子
     ☆連 の 雨に めり 逢ひたしや
 それ故か、俳句まで何となく短歌めいて見える。 
 句をはじめて三年、「学ぶ」という初心の態度が真摯で、ひそやかにひたすらに十七音理解に努め、ことにその理解力は抜群である。
 「初学三年一芸十年」といわれるが、その初学三年の間 「鶴」への投句も控え、ために波郷先生が亡くなってついに波郷選を受け得なかったことを悔となす。
     *逝く春や 選者をうらむ 哥の主     蕪村
 かくて蕪村の わらいに触れることなくすごしたが、つねに気にせる評言「少女趣味」から、脱却せんものと近時「鶴」へ投句を試み初む。
 感覚や才能のよろしさに加えて態度のよろしさが作品の次元を高めている。
     ☆芽あじさい 日の くまなく 受けにけり     みち子
 対象に自己の投影を試み十七音の真のよろこびに近づかんと欲す。八木三日女の句境に胆をつぶし洋裁教師を業となす。本名美智子 あだ名、少女趣味 堺市三国ヶ丘御幸通り十三 年齢未詳。
                                     (雄)


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